学術会議における利益相反(COI開示)とは?

2023.06.14

2024.07.31

利益相反とは、conflict of interest(COI)とも言われ、これを開示することにより公正な研究結果の判断に悪影響をもたらさないようにするという意味合いがあります。この記事では、学術会議における利益相反について解説していきます。

利益相反(COI)とは

利益相反(COI)とは、科学的客観性の確保や患者や被験者の利益を保護するという学術研究者や学術研究機関の責任に対して不当な影響を与えて、重大なリスクを発生させてしまうような利害の対立状況のことです。

例えば、企業など営利を目的にした団体や機関から資金提供を受けて行われた学術研究の結果が資金提供をしてくれた企業や団体の不利益に当たる場合、学術研究の結果を捻じ曲げたり隠蔽してしまうなど第三者から見て学術研究の結果が公正に判断できなくなるといった状況を指します。

学術研究者の利益相反開示義務

学術研究者は、利益相反指針に基づいて人間を対象とした医学研究をするためには、実施計画書と利益相反自己申告書を各項目が基準以上であれば開示して施設や機関の長に提出しなければなりません。

また、学術研究によって得られた結果を論文や学会発表などで世の中へ公表しようとする場合も学術研究者は定められた様式で発表内容と関係のある企業や団体との利益相反状態を自己申告によって開示することが求められています。

利益相反状態に関連する情報は、年度ごとに学術研究者自身で管理するということも求められます。

利益相反指針違反と考えられる実際の例

実際にどのような事象が利益相反指針違反と考えられているのでしょう。ここからは、実際に問題視された実際の例を紹介していきます。

ゲルシンガー事件

ゲルシンガー事件は、1999年にアメリカのペンシルべニア大学で起こった利益相反問題です。

OCT欠損症に罹患した当時18歳のゲルシンガー少年が、ペンシルベニア大学遺伝子治療機構による臨床試験に参加し、ベクターとして使用されたウイルスを原因とした臓器不全で死亡してしまいました。

臨床試験の前に、サルを使った前臨床試験で4匹が死亡し、以前の複数被験者に重篤な有害事象があることを認めましたがFDA(アメリカ食品医薬品局)に報告はありませんでした。

また、適応基準から外れた重篤な病状の症例も含まれていましたがIC(インフォームドコンセント)文章の中には記載が無く、ペンシルベニア大学遺伝子治療機構はリスクと利益に関するすべての情報開示の義務を果たさず臨床試験への誤誘導を行なったとされています。

ゲルシンガー事件から見て取れる利益相反状態は、深刻なものでした。ペンシルベニア大学遺伝子治療機構の所長だったウイルソン医師が設立したベンチャー企業が資金を提供しており、その企業は研究結果を商業化する権利も有しています。さらに、ウイルソン医師とペンシルベニア大学は企業の株をそれぞれで保有しており利害関係にありました。

ゲルシンガー事件をきっかけに、企業が関わる臨床試験の倫理審査について国際的に議論が交わされ学術研究者の研究内容に対する企業や団体との金銭等の関係透明化が強く求められています。

その結果、ヘルシンキ宣言が2000年に改訂されて人間を対象とする医学研究のすべてで研究資金の出費元やスポンサー等の関連機関との関係と利害関係がある可能性が高い利益相反情報を倫理審査委員会に報告を行うとともに被験者へのしっかりとした説明、刊行物等への公開が求められ始めました。

学会発表における利益相反

各学術会議では、演題の発表時に利益相反の開示が必要になってくる場合があります。

口頭での発表を行う場合、利益相反の有無をスクリーンに掲示し、ポスター発表の場合はポスターの掲示にて利益相反を開示するのが一般的です。

また、学術会議が行う事業において重大な利益相反が生じた場合、または利益相反の自己申告が不適切だと考えられる場合には利益相反マネジメント委員会を開く必要があり該当する会員からヒアリングを行う必要が生じます。

学術会議としての利益相反マネジメントの重要性

産学連携などの社会活動を行う時、学会員は企業等の営利団体と経済的な利害関係を持ち活動に対して利益を得る場合があります。利益を得ることについて何ら問題はありませんが、この活動により得られる社会の利益よりも関係している学会員の利益を優先させた結果、学術会議の中立性や信頼性に悪影響を与えかねません。

利益相反により産学連携が停滞することなく会員が学術研究などに取り組めるよう利益相反マネジメント行うことは重要です。

まとめ

利益相反を考える中で間違えてはいけないのが、研究を行い成果発表する場合利益を追求する企業などの団体から資金提供を受けることが悪と捉えられてしまうことです。

正しく利益相反の申告を行い、不正のない研究結果の公表ならば何の問題もありません。

研究の正当性を示すためしっかりとした利益相反の申告を行いましょう。