学会運営DX化への道 失敗しないシステム選定 2/4(全4回) 演題登録システムのわかりやすい要件解説

2023.07.17

2024.07.31

はじめに 学会の大会や学術会議、セミナーやワークショップの「質」を支えるのが発表される研究内容です。 テーマや演題のエントリーから審査、プログラムへの落とし込み、発表までの段取りから当日の進行、発表後の登壇者へのフィードバックまで数多くのタスクが存在します。 演題登録システムには次の方々に4つのメリットがあります。 (1)登録者 (2)審査員(査読者) (3)システム管理者 (4)学会参加者 それぞれの立場の人にメリットになる演題登録システムについて考えてみます。

1.演題登録システムの機能の適合性

1.1.学術会議や学会の要件に合致しているか

研究領域や問題意識が近い研究者や知識人が学会や学術会議には集まりますので、テーマに全く異質なものがエントリーされることはないと思います。
例えば、フランス文学に関する学会に量子力学や相対性理論についての新しい学説の発表などはないでしょう。
演題登録システムで大会の発表のための演題のエントリーを受け付ける時の「ふるい(篩)」は、内容よりも枠組み、フレームについてです。

学会の発表やプレゼンテーションは厳しい時間の制限があります。セッション全体は30分程度で、本発表は20分、質疑応答が5分、アンケート回収と移動に5分と言うのがスタンダードです。
発表時間に収まるか、配布資料の有無、アンケートやフィードバックの方法などです。
また、国際会議では、使用言語の制約もあります。多くの場合は、英語と開催国の公用語です。
また、発表方法も多岐にわたります。
オーソドックスなオーラル(口頭発表)、ビジュアルプレゼンテーション、ポスター発表、ハンズオンやワークショップ形式、Web会議システムを使ったオンライン発表、オンラインとリアルによるハイブリッド発表など、学会の性格や開催場所、会場の条件(環境)などによって大きく変わってきます。

1.2.演題登録

システムの最も基本的で、どのような演題登録システムでも持っている機能が、登録・修正・審査です。
重要な視点はエントリーサイドとエントリーを受け付けるサイド(審査員、査読者、システム管理者)での使い勝手です。

(1)演題登録

・制限事項
・属性
・分類
・容量
・データー形式
・査読者指定機能
学会大会や学術会議の性格上、制限や必須事項がある場合はエントリーフォームに反映させなければなりません。
例えば、登録者の属性(会員タイプ)や共著者・共同発表者の属性(非会員を認めるかどうか)、1演題に対するエントリー人数の制限、発表言語などです。
また、演題の分類についての登録規定。大会の定めたカテゴリーの選定方法(自由記入かプルダウンメニュー方式か、複数カテゴリーへのエントリー可否など)について、管理者サイドであらかじめ決めておかなければなりません。システム管理者からシステムの制約上限などは明らかにする必要があります。
例えば、演題登録フィールドがデータベースの設計上◯◯文字以内とか、所属機関名は英文標記が必須であるとか、などです。
アップロードのデータ形式(text,jpg,png,gif,pdf,mpeg,mv4,mov,flvなど)や容量もシステム制約がある事項ですから、システム管理者の指示は必要です。
漢字などの文字コード体系も重要です。一般的には4バイトあれば、漢字や中国語(簡体字・繁体字)も表示できるのでUnicodeに対応できていれば大きな問題はないでしょう。縦書き表記についても学会によっては、触れることが大切です。
難字や機種依存文字の使用などについてはケースバイケースなので、FAQの充実やヘルプ機能の実装で対応するほかないでしょう。
歴史、古典文学や漢詩、外国語系の学会では苦労する分野です。
学会によっては、演題登録に事前査読のある学会も存在します。その場合に登録者から査読者の指定(排除)の機能が必要な場合もあります。対立する研究者や、同一研究グループの研究者を除いて欲しい場合などもあります。この機能は管理者サイドの機能として実装する場合もあるでしょう。

(2)エントリー内容修正

・告知事項
・タイムライン提示
・修正方法通知
・管理者権限
修正については、全てのユーザーにあらかじめ告知しておく必要があります。
エントリーの締め切り日時、取り下げリミット、修正方法(登録者のプロフィール変更、演題の部分修正、ファイルの差し替えの場合のファイル名の付け方など)についての内容は技術的な制約よりも運用上の問題が多いので、システム管理者と審査者の意思統一が重要です。
システム管理者による代理投稿・修正・削除などの有無。また、そのような作業の時の規定や承認権限の仕組み(フローと承認履歴の保存機能など)が求められます。

(3)審査機能

・審査プロセス(受付~リバイス~アクセプトorリジェクト)
・審査員
・査読者
・システム管理者権限のコントロール機能
演題の登録には承認プロセスが伴います。演題や論文の受付からリバイス(修正指示)、アクセプト(受理)やリジェクト(却下)のタイムラインの進捗状況管理が必要です。
ビジュアルに可視化されていると、査読者も審査員も大変助かります。
登録者サイドに審査プロセスが見えるようにするかどうかの選択が、管理者サイドでできると、プロセスの透明性も担保できます。学会によっては審査過程が非公開の場合もあります。けれども、公開の有無がシステム上にあることは重要なことです。

1.3.査読結果のフィードバック機能

さて、演題登録者の一番気になる、やきもきするのはアクセプトまでの期間でしょう。学会大会と研究会などでは、審査や査読の厳しさが学会によって異なります。
発表後に査読を受けるケースも稀にありますので、演題登録時に一連のプロセスの提示は必要です。
FAQやヘルプ機能があれば登録者には親切なシステムです。
はじめて、その学会の発表に臨む研究者は、どこの段階でどのようなフィードバックが受けられるか知りたいものです。管理者サイドの機能としては、演題登録者への結果や中間状況の一斉返信機能などは大変便利です。
エントリーから指定期日が経過したら、システム管理者と審査員(査読者)に自動的にアラートメールが届いたり、管理システムのダッシュボードに表示されたりするようなシステムは親切です。
リジェクトされた場合でも、登録者はその理由やその後のアドバイスがあれば助かります。学会によっては結果の通知のみの場合や、期日内にアクセプト通知がなければそれまで(自動的にリジェクト)のところもあります。学会の特性や規定に従ったシステムになっていることが大切です。
演題のアクセプトや採否の通知もメッセージ方式や電子掲示板での表示方法などいくつかあります。事務局への問い合わせを減らすために、複数の方式を採用して確実性を上げることもできます。
情報処理学会のように、学会大会で毎回1,000件以上の発表のあるような大会では、発表や発表までのプロセスのコントロールはとても大切かつ大変なタスクとなります。

2.ユーザーエクスペリエンス

UX(User eXperience)はどのようなシステムでも利用するユーザーにとっては一大事です。システム管理者のように使用頻度の高いユーザーには余り問題とならないようなことでも、はじめてのユーザーや年に数回しか使わないユーザーにとっては問題です。

2.1.直感的でシンプル

直感的なUI(User Interface)でマニュアルなどを読まなくても使えることが理想です。
画面デザインについても、弱視者や老眼、色覚異常(色弱)などの方にも優しい配色や文字フォントの使用にも心くばりをしたいものです。

2.2.多言語対応

学会は国際的性格が一般的な団体よりも強い団体です。日本文学や日本史の研究団体でも海外からの研究者の参加は数多くあります。ホームページが日本語や英語に対応しているものは多くなっていますが、その他の言語に対応している学会はまだまだなのが現状です。
演題登録システムをはじめ、会員登録システムやその他の学会管理システムになると英語に未対応(メニューの英語化やヘルプの未対応)なものが多くあります。

2.3.登録状況や審査結果の確認機能

多くは管理者の必要とする機能ですが、サマリー機能が進捗管理には必要です。
特に現在状況が俯瞰できるだけでなく、時系列で追えるタイムライン確認機能が大切です。
学会大会や学術会議の開催から逆算した、バックキャスティング方式での演題管理がポイントです。そうでないと、開催会場のセッションルームや講堂の確保数をオーバーフローしてしまい多くの関係者に迷惑をかけてしまいます。
また開催日の直前に演題のアクセプトのお知らせが届くと、登壇者の準備に余裕がなくなってしまいます。特に研究室単位での発表を予定している場合などは準備と調整に多くの時間が必要です。

3.柔軟性と拡張性~制約事項も明確に

3.1.追加機能やカスタマイズ性

演題は学会の性格や方向性を根強く反映させるものです。
理工学系の学会では、数式が共通言語となるため数式が正確に表現されることが必須となります。日本物理学会や情報処理学会では、数式や化学式の正確な記述ができるLaTeX(TeX)の原稿も受け付けています。

また、LaTeXのアプリケーションをインストールするのが面倒であったり、外出先で見直しや修正を加えたい時にクラウドでLaTeXを使えるクラウドサービスもあります。またスマートフォン用のアプリケーションもあり自由度も広がっています。TeXの組版データをそっくり受け取ってくれる印刷会社もありますので、数式を扱う学会ではデータの受け渡しがスムーズに行える機能拡張も考える必要があります。
文化系や社会科学系の学会は文献学としての要素が強いので、古文書や戦前の旧字体の判例などでは縦書きの引用が必要になる場合もあります。
演題は横書きでの登録であっても、要約の登録や査読用論文に縦書きが登場する場合に工夫が必要です。
このような時に標準システム外の機能追加に相談に乗ってくれる開発パートナーがあれば、とても安心できます。

3.2.制約事項の透明性

システムですから、ユーザーの全てのリクエストに応えなければならないと言うことでもありません。
あらかじめ制約事項を明示してユーザーに協力を求めることも大切です。一般の商用システムとの大きな違いです。
ただし、エントリーの最終工程で制約事項が明らかになることは避けましょう。特に査読をお願いする先生方や研究者には、査読に関わるシステム上の制約事項や留意事項を事前にお知らせすることは事務局サイドの大切な仕事です。

3.3.管理者権限の付与(特権機能の有無)

どんなシステムでも想定外のことやイレギュラーは発生します。
締め切り日を過ぎても学会理事会の判断でエントリーしなければならない事態や、初心者のミスに対する救済措置は心温かい研究者は望むところです。
ただし、そのような場合でも無秩序にシステム変更や強制エントリーなどは許されません。管理者権限の執行には、「いつ・だれが・どうして」そのようにしたのかが履歴として保存される承認プロセスのアーカイブ機能が求められます。

おわりに

学会や学術会議では、年次大会や定例の研究会、セミナーや講演会は内外に研究成果や学会活動を知らせる重要な場です。そのための演題登録システムは、それぞれのイベントの発表内容の「質」を向上させ、研究成果をアーカイブするために無くてはならないシステムであることが、おわかりいただけたと思います。
ECサイトと同じように利用者にメリットがないと支持されません。演題登録システムは質の高い論文や研究成果を学べる、最高のステージを準備してくれる縁の下の力持ちです。
一般のWebサイトやECサイトと共通点とシステム上の違いもあります。
演題の登録システムや流れは、ECサイトの商品登録システムに似ています。特定のプロセス(演題登録、商品登録)を管理するための機能です。ユーザーがステップを進めるごとに情報を保存し、進行状況を管理するための機能が共通しています。
そのために演題登録システムの開発企業やサポート体制は、ECシステムの開発経験のある企業にアドバンテージがあります。ノウハウがシステム開発と運用・サポートに活かせるからです。
ただ、登録情報の種類と目的が違いますので、情報の持つ個別性・特異性(文字フォント、数式表示、多言語対応など)についてシステム構築者の深い理解が肝心です。
そして、審査プロセスの組み込みが必要ですのでECサイトなどとは全く別の視点での開発が求められます。
また、データ保護とセキュリティ要件も学会大会の演題登録システムでは、個人情報や研究データなどの機密性の高い情報の保護が重要になります。

このような管理システムの持つ共通性と異質性の両方に熟知したパートナーの支援が欠かせないのが、演題登録システムの構築と運用のノウハウです。
学会の大会の成功を支える「量」と「質」を担保する参加者登録と演題登録のシステムは、学会の発展にも大きく貢献できることでしょう。