【Tips】学会ごとに異なる投稿規定への対応と、投稿者への配慮ある提案方法
2025.11.18
2025.11.18
はじめに
学会事務局が直面する課題の一つに、各学会・大会が独自に定める抄録や論文の投稿規定への対応があります。複数の学会に論文を投稿する研究者にとって、規定の微妙な違い(文字数、構成、引用スタイル、ファイル形式、倫理審査の要件など)は大きな負担となります。同様に、事務局スタッフにとっても、これらの規定を正確に解釈し投稿者に説明することは、重い業務負担をもたらします。
AIを適切に活用することで、事務局はこの負担を軽減し、投稿者に対して思慮深く、個別最適化されたサポートを提供できるようになります。本記事では、AIが学会運営の品質向上にいかに貢献するか、実践的な視点から5つのアプローチを検討します。
注記:二重投稿と二次投稿の区別
当然のことながら、同一内容の論文を同時に複数の学会へ投稿する行為(二重投稿)は禁止されています。この禁止事項は、国際的な出版倫理の基本原則として位置付けられており、多くの学会がこれに準拠しています。
一方、時期を変えて別の学会に投稿すること(いわゆる二次投稿)は、研究分野や学会の規定に則って適切に行えば、一般的な慣行として認められている場合があります。例えば、国際会議で発表したプロシーディング論文(学会発表の予稿を形式化した論文)を、内容を拡張・改訂したうえで国内学会誌に投稿するケースは多く見られます。
【参考】
・Handling concurrent and duplicate submissions|Committee on Publication Ethics
・二重投稿と二次投稿の違い|医学英語総合サービス
・プロシーディングと学術雑誌-その違いは|エナゴ学術英語アカデミー

1. 投稿規定の「パターン認識」とチェックリストの自動生成
多くの学会の投稿規定は、過去の慣例や国際的な基準(例:Vancouverスタイル、APAスタイルなど)を基に定められています。AIなら、こうした規定のパターンを認識し構造化できます。事務局スタッフの経験や知識に頼る規定解釈のばらつきを軽減することで、より一貫性のある対応が実現します。
1.1 規定文書の構造化と要点抽出
各学会の募集要項(PDFやウェブサイト)をAIに読み込ませ、重要なポイントを抽出・要約させることで、投稿者向けの分かりやすいチェックリストを迅速に作成できます。単に情報を抽出するだけでなく、規定が設けられた背景(例:「査読の円滑化のため」「国際誌への移行準備のため」)もAIに分析させることが、事務局側の深い理解につながります。
実践プロンプト例(ChatGPT/Claude):
次の学会大会の投稿規定を読み込み、投稿者が執筆前に確認すべき重要なポイントを、
以下の3つのカテゴリーに分けて、詳細なチェックリスト形式で抽出・要約してください。
各項目の抽出後、その規定が設けられていると推測される「目的(理由)」も併記してください。
・カテゴリー1:形式要件(文字数、ページ数、フォント、行間など)
・カテゴリー2:内容・構成要件(必須の構成項目、倫理的配慮の記述箇所、キーワード設定の要件など)
・カテゴリー3:提出要件(ファイル形式、図表の解像度、投稿システムの操作上の注意点など)
【投稿規定】
[ここに募集要項のテキストを貼り付け、またはPDFをアップロード]
生成されたチェックリストを投稿者に提供することで、規定の見落としによる差し戻しを減らし、双方の負担を軽減できます。
さらに、事務局が「目的」を理解することで、規定に沿わない投稿があった際の案内の質が向上します。投稿規定の背景理解に関しては、査読プロセスの効率化と学術的価値の維持がバランスする必要があり、多くの国内学会ではこの理念に基づいて規定を策定しています。
具体例:国内学会の実践例
日本教育メディア学会では「研究論文」「研究ノート」「実践研究」といった複数の論文種別を設定し、それぞれに異なる要件を設けることで、研究の多様性と質的水準の両立を図っています。
また、日本森林学会は2024年の規定改訂においてORCID(オープンな研究者識別子)の取得を筆頭著者に要件化し、国際的な研究データ統合への対応を強化しています。
【参考】
・医学雑誌掲載のための学術研究の実施、報告、編集、および出版に関する勧告|株式会社翻訳センター
・「教育メディア研究」投稿規程|日本教育メディア学会
・投稿規定|日本森林学会
1.2 投稿システムとAIの連携:自動チェック機能の構築
Google WorkspaceやMicrosoft 365に統合されたAI機能を利用し、投稿された原稿に対して簡易的なチェックを自動で行う仕組みを構築できます。
具体的な自動チェック機能:
文字数チェックの自動化
提出された抄録をAIに読み込ませ、規定の文字数(例:400字)と比較させ、超過分を自動で通知することができます。この機能により、投稿前の下準備段階から、投稿者の負担軽減が実現します。
必須項目の確認
抄録内に「目的」「方法」「結果」「結論」といった必須の見出しが含まれているかをAIにチェックさせることで、構成の漏れを事前に防ぐことができます。
引用スタイルの簡易確認
参考文献リストが、指定されたスタイル(例:日本心理学会の「著者名, 発行年, 論文タイトル, 雑誌名, 巻(号), ページ」形式、米国心理学会によるAPA形式、米国の近代言語協会(MLA)が推奨するMLA形式など)に概ね沿っているかをAIに判断させることが可能です。投稿者が引用スタイルについて疑問を抱くことは多いため、この機能は特に有用です。
こうした自動チェック機能により、事務局スタッフが一次チェックにかける時間を大幅に削減し、より専門的で思慮深い内容審査に集中できる環境が整えられます。
【参考】
・ビジネスアプリとコラボレーションツール|Google Workspace
・ビジネスのアイデアを形にしましょう|Microsoft 365
・国内学会の行動規範・投稿規定|国立研究開発法人科学技術振興機構
2. 投稿者への「摩擦の少ない」修正依頼メール作成術
規定に沿わない投稿があった際、事務局からの修正依頼は、投稿者の研究意欲や学会への信頼感を損なわないよう、極めて丁寧で思慮深いコミュニケーションが求められます。
研究者にとって、自らの研究成果が厳格に評価される過程は重要ですが、同時に事務的な規定対応による否定的な経験は避けるべきです。AIなら、直接的な「指示」や「指摘」を、協力的で建設的な「提案」の文面に変換できます。
2.1 「指摘」から「提案」へのトーン変換
AIを活用し、事務局が内部で確認した客観的な問題点(事実)を、投稿者が気持ちよく受け入れられる建設的なフィードバックに変換します。このアプローチにより、指摘という行為が、研究者との協調的な関係構築に転換されます。
実践プロンプト例(ChatGPT/Claude):
次の論文抄録について、投稿規定に沿っていない点を修正するよう著者に依頼するメールを作成したいです。
ただし、命令的な表現や一方的な指摘は避け、「より良い発表にしていただくためのお願い」というような、協力的で丁寧なトーンの文章にしてください。著者の研究への敬意を最初に必ず述べてください。
【修正を依頼したい客観的な問題点】
・倫理審査承認番号の記載が不足している。
・抄録本文が480字で規定の400字を80字超過している。
・著者所属機関名が正式名称ではなく略称で記載されている。
【生成したいメールのトーン】
学術的な品格を保ちつつ、著者の研究への敬意を示し、あくまで事務局として投稿をサポートする姿勢が伝わるようにしてください。修正期限を明記し、期限内に再提出がない場合は不採択となる可能性があることも、丁寧に伝えてください。
こうしたアプローチにより、事務局は規定順守の必要性を明確に伝えつつ、著者との良好な関係を維持することができます。AIをコミュニケーションの潤滑油として活用することが、配慮に満ちた運営の鍵となり、学会全体の評価向上につながります。
実践例:日本感染症学会の取り組み
日本感染症学会が2024年9月に投稿規定を改訂した際、投稿者向けのガイダンスメールを送付した事例が参考になります。同学会は「倫理規定および臨床試験登録に関する要件」を明記し、投稿者の負担を明確に示しながらも、「学会の発展に向けた研究者との協力」という理念を強調する表現を採用しています。
【参考】
2.2 多言語対応の自動化
国際的な学会運営においては、非日本語話者の投稿者(海外からの投稿者)への対応が不可欠です。AIなら、日本語で作成した修正依頼文を、英語やその他の言語に学術的なトーンを保ったまま正確に翻訳できます。
実践プロンプト例(ChatGPT/DeepL):
次の日本語の修正依頼メールを、英語の学術的な文体(フォーマルで丁寧なビジネス英語)に翻訳してください。翻訳の際には、学術出版における標準的な用語を使用し、著者に対する敬意が失われないよう注意してください。
[ここに日本語の修正依頼メールの全文を貼り付け]
DeepL WriteやGrammarlyなどの専門ツールを併用することで、翻訳後の文法やスタイルもチェックでき、外国人投稿者に対するストレスのない、きめ細かい情報提供が実現します。
【参考】
・翻訳ツール|DeepL
・AI Writing Assistance|Grammarly
3. 投稿者への配慮ある情報提供のためのAI活用
事務局の業務は、研究者の貴重な知見を学会という場を通じて社会に発信することを支援する、意義深い役割を担っています。単に規定をチェックするだけでなく、「どうすれば投稿者がよりスムーズに、かつ心理的な負担を軽減して投稿できるか」というユーザー体験の改善が求められています。AIはこの改善プロセスにおいて、重要なツールとなり得ます。
3.1 投稿規定の「FAQ」自動作成
投稿規定は複雑になりがちであり、投稿者から同じような質問が何度も事務局に寄せられることが頻繁にあります。AIに規定全文を読み込ませ、投稿者が抱きそうな疑問を予測させ、FAQを自動生成させることができます。
実践プロンプト例(ChatGPT/Claude):
次の投稿規定全文を基に、投稿者がよく尋ねそうな質問を10個挙げ、その質問に回答する形式の
FAQを作成してください。FAQの回答は、規定の文言をそのまま使うのではなく、投稿者が具体的に
何をすべきか(アクション)を分かりやすく示す形で作成してください。
【投稿規定】
[ここに募集要項のテキストを貼り付け]
このようにして生成されたFAQを投稿ページに掲載することで、投稿者が事務局へ直接問い合わせる前に必要な情報を自力で入手でき、事務局への問い合わせ件数の削減につながります。
実践例:日本高次脳機能学会の取り組み
日本高次脳機能学会の投稿規程が参考になります。特に引用スタイルに関しては、「Hillis(2023)によると…」「…とされている(Hoeftら 2024)」など、複数の具体例を提示することで、投稿者が迷わず判断できるよう配慮されています。このように、FAQの具体性を高めることで、投稿者の自己解決率が向上し、事務局への問い合わせ件数の削減にも効果を発揮します。
【参考】
3.2 投稿規定変更時の「差分」自動説明
規定が前回の大会から変更になった場合、その「変更点」を分かりやすく説明することは、投稿者への最大の配慮となります。AIに新旧の規定を比較させ、変更点を抽出させることで、投稿者の負担を大幅に軽減できます。
実践プロンプト例(ChatGPT/Claude):
次の【旧規定】と【新規定】を比較し、変更された箇所を抽出してください。抽出した変更点について、投稿者向けに「今回の変更で特に注意すべき点」というタイトルの簡潔な案内文を作成してください。
特に、投稿者の負担が増える変更と軽減される変更を区別して説明してください。
【旧規定】
[旧規定のテキスト]
【新規定】
[新規定のテキスト]
この方法で、変更点を明記した案内を投稿ページに掲載することで、投稿者が規定の細部まで自力で読み込む負担を軽減でき、特に複数の学会に投稿する研究者にとって大きなメリットとなります。
実践例:日本金属学会の取り組み
日本金属学会が参考になります。同学会は「多重投稿を防止するための論文作成のガイドライン」を明記し、「企業の技報、大学の紀要、原著論文に該当しない公開刊行物」といった細かなカテゴリーを設け、投稿者が判断に迷わないよう配慮しています。2024年のミスコンダクト対応規程改訂時には、これらの変更点を明確に通知し、投稿者の円滑な理解を促進しています。 ユーザー体験設計の観点からは、変更の「理由」も併記することで、投稿者の納得度が向上し、規定への信頼性が深まります。
【参考】
4. 事務局スタッフの専門性とAI活用の統合
AIは強力で有用なツールですが、最終的には事務局スタッフの専門的な判断と学術的倫理観が不可欠です。AIの能力を適切に活用しながらも、人間にしかできない判断と配慮を組み合わせることが、真に質の高い学会運営につながります。
4.1.AIの出力を「判断材料」として扱う
AIが示したチェック結果や修正提案は、あくまで一次的な情報であり、最終的な判断は事務局スタッフや委員会メンバーが行う必要があります。特に学術的倫理に関わる判断(例:データの信頼性に関する指摘)については、委員会メンバーの経験と知識に基づく慎重な検討が求められます。
4.2.知識の共有と組織的学習
AIが生成したFAQやチェックリストを、Google DriveやNotionなどのプラットフォームで共有し、事務局チーム全体の知識レベルの均質化を図ります。このプロセスを通じて、個別の事務局スタッフの経験則が、組織全体の資産として蓄積されます。
4.3.情報セキュリティの徹底
AIに提供する文書は、個人情報を含まない公開情報に限定するなど、情報セキュリティガイドラインに沿った対応を心がけます。特に、投稿者の個人情報や査読過程に関する機密情報については、AIによる処理の対象とならないよう、慎重に取り扱うことが大切です。
学術情報の適正な流通と倫理的な出版プロセスの構築については、国際的な出版倫理機構(COPE)が発表する倫理ガイドラインを参照してください。COPE(Committee on Publication Ethics)は出版倫理に関する国際的なコンセンサスを形成する組織として、150を超える国からの研究機関や出版社に支持されており、学会の運営方針の基礎となる重要な指針を提供しています。また、国内の学協会に関しては、国立研究開発法人科学技術振興機構が運営する「研究公正ポータル」において、国内学会の行動規範と投稿規定が一元的に管理されており、各学会の実践例を参照することで、自学会の運営改善につなげることができます。
【参考】
・出版倫理ガイドライン|Committee on Publication Ethics
・国内学会の行動規範・投稿規定|国立研究開発法人科学技術振興機構
5. 実装上の留意点と段階的導入
AIを学会事務に導入する際には、技術的な側面だけでなく、組織的・人的な側面についても配慮が必要です。以下は、実装を成功させるための実践的な留意点です。
5.1.スタッフの習熟度差への対応
事務局スタッフの中には、AIツールの使用経験が異なる者が存在します。導入の初期段階では、基礎的な使い方をカバーする研修を実施し、その後、運用を通じて段階的にスキルを向上させていくアプローチが効果的です。
5.2.予算面での現実的評価
ChatGPT有料版、DeepL、Grammarlyなどのツール導入には、月額費用が発生します。各学会の規模と予算に応じて、複数のツールから最適な組み合わせを選択することが肝要です。無料版の機能制限内での運用から開始し、必要に応じて有料版への移行を検討するアプローチが現実的です。
5.3.投稿者からのフィードバック収集
AIを活用した修正案の提示が、実際に投稿者にどの程度受け入れられているかを定期的に調査することで、運用改善の方向性を明確にできます。段階的導入のアプローチに関しては、複数の学会が参考になります。
おわりに
投稿規定への対応におけるAI活用は、単なる業務効率化に留まりません。むしろ、学会の運営品質の向上と投稿者サービスの高度化に直結する重要な戦略です。規定の複雑さを乗り越え、投稿者に対する思慮深いサポートを実現することは、学会の信頼と魅力を高める上で不可欠な要素となります。
AIのような新しい技術を、学会という伝統的で透明性・公平性を求められる場に導入する際には、まず事務局スタッフ自らが、その活用方法について深く考え、学会の理念や投稿者への姿勢を反映させた運用設計を行うことが大切です。
本記事で示したAI活用の具体例が、各学会の実情に合わせた改善への一助となり、研究者にとって発表しやすい環境が広がることが、日本の学術研究の深化に繋がります。
【参考】
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