学会運営DX化への道 失敗しないシステム選定 1/4(全4回) 参加登録システムのわかりやすい要件解説
2023.07.10
2024.07.31
学会の大会やセミナー、学術会議には多くの人に参加の機会が与えられています。 けれども事務局はその受け入れに、大変な苦労が伴います。参加者には快適に参加していただきたいと思いながらも効率化も進めなければなりません。 学会の参加登録システムに必要な機能はどんなことでしょうか。実際の学会大会や学術会議の場面を想定してシステム要件を整理してみましょう。 どのようなシステムにも共通することですが、現状のやり方やシステムよりも効率化が図られなければなりません。 また、ミスの少ない正確さも求められ、学会では慎重で確かなことが重視されます。そのために事務局の負担増や時間がかかるシステムでは学会運営に支障をきたします。 一見、相反するようなリクエストをうまくまとめてくれるシステムについて考えてみましょう。
1.学会の参加登録システムとは
学会や学術会議の参加者には大きく二つの立場の研究者がいます。
一つは、聴衆として研究発表を聴く側、学生や初学者も含まれます。
もう一つは、発表する研究者や招待講演の登壇者などです。
そのために参加登録システムには、発表者と聴衆の両方のニーズを満たすことが求められます。
1.1.ニ大要件〜演題と参加者登録
参加者には、発表者と聴衆者、参加者の資格(タイプ)別の区別ができる登録システムが必要になります。発表者側には「何を発表するか」と言う、演題のエントリーシステムがなければなりません。
言わば、量と質を満たすシステムが必要になります。
1.2.演題登録
演題登録のシステムはエントリーから審査、承認と大会や学術会議のプログラムへの落とし込みまで、いくつかのプロセスが必要です。
学術コンテンツには、論文以外にもポスターや造形物(作品や模型など)もありますので学会の特性に合ったものが必要です。
学会の「質」を決める大切な選考システムですので、別途解説することにします。
※詳しくは『演題登録システムのわかりやすい要件解説』をご覧ください。
1.3.参加者登録
学会や学術会議、セミナーや講演会の参加者の「量」的側面を把握するためのシステム、それが参加者登録システムです。
次の項より、学会参加者の参加登録システムの要件と使い勝手上の留意点をまとめてみます。
2.参加登録システムの要件
参加者の登録に関連する必要事項をみてみることにしましょう。
2.1.オンライン登録機能
(1)参加登録・変更機能
参加登録・変更の機能はWebエントリーできることがユーザーの使い勝手を向上させます。紙による申込書やFAXなどはミスや記入漏れが生じるため、事務局の作業を増やすだけでなく正確性を欠くことにつながります。
また、複数人や団体での申し込みに対応できることも必要です。
スマートフォンなどのマルチデバイスへの対応は必須です。
(2)オプション対応
大会への参加確認以外にも、懇親会の参加、昼食手配、抄録部数の追加、開催地企画へのエントリーなどの申し込みを受けつける機能があると便利です。加えて、必要に応じて課金システムも備わっていると、まとめて決済もできますので、参加者にとってはワンストップのサービスを受けられます。
(3)決済機能
当日の受付での支払いなのか、銀行振込・郵便振込、コンビニ払い、クレジットカードやモバイルアプリへの対応など参加者の利便性をはかることも大切です。
決済システムは不正利用対策もされたもので、広範に対応するセキュリティ、厳格なコンプライアンス対応が求められます。
また、学会によっては円だけではなくドルやユーロなどの各国通貨への対応も国際的な広がりの中では欲しいところです。
(4)管理機能
事務局で参加者の登録情報の収集や申込状況確認、入金確認が画面やプリントアウトできればとても効率的に作業が進みます。
管理状況が保存されることで、次回や次年度の事務局への引き継ぎもスムーズになります。
(5)領収書・請求書発行機能
決済完了後の領収書の発行や法人会員への請求書発行も、参加者のマイページを設けることで事務局の手間を削減できます。
(6)参加証発行機能
参加者のマイページから参加証の発行ができ、当日の受付でパスケースの配布のみにできれば、受付の混雑緩和と時間短縮に貢献できます。
(7)多言語対応
英語や中国語、学会や学術会議の参加者の構成に応じた言語対応が求められます。特に日本語システムにないフォントへの対応は手書きによる画像の取り込みや出力などの工夫もだいじです。運用上の工夫では参加者の氏名はパスポートネームに統一することも一考です。
2.2.参加者タイプへの対応
学会に大会やセミナー、学術会議の参加者にはさまざまな方々がいます。
招待者やマスコミの取材などの学会メンバー以外の参加者にも事務局は対応しなければなりません。
参加できるセッションに制限がある場合には、会場係がスムーズに対応できるように参加証の色分けや腕章の配布(Press:記者章)なども必要となる場合があります。
一般的には次のような参加者のタイプがありますので、登録システムのカテゴリーとして把握しておくと良いでしょう。
・正会員
・準会員
・学生会員
・名誉会員
・非会員(一般参加者、招待者、マスコミなど)
それぞれの参加者別によっては、会員番号やパスワードなどの認証システムや事務局からの一時認証(マスコミなど)のメニューも必要になるかもしれません。
2.3.参加者情報の管理とレポート機能
参加者情報の管理とレポート機能には、次のようなことが求められます。
(1)参加者情報の収集と保存
参加者が登録フォームを通じて個人情報や所属情報を提供すると、システムはそれらの情報を収集し、データベースや参加者リストなどに保存します。参加者の氏名、所属機関、連絡先情報、参加タイプなどの詳細な属性です。
(2)オンライン会議・ハイブリッド開催の参加者情報の提供
オンライン研究会や学会大会をハイブリッドで開催する場合には、会員がどのセッションに参加しているかのログデータの収集も必要です。Microsoft Teamsなどで会議出席レポートを管理する機能がありますので、ASPのサービスを利用する方法もあります。
(3)支払い情報の管理
システムは参加者の支払い情報を収集し、登録料の支払い状況や支払い履歴の管理が必要です。参加者がオンラインで支払いをした場合、支払いの確認や支払いステータスの更新が行われなければなりません。
(4)レポート生成機能
参加者情報や支払いデータなどを元に、レポートを生成する機能が必要です。例えば、参加者リストや参加者の所属機関別の集計レポート、支払い状況のサマリーレポートなどの生成です。これにより、学会の運営や参加者の統計データの把握が容易になります。
外部システムとの連携機能も必要です。CSV形式やXML形式などの各種データベースで取り込める出力形式へ対応していると使い勝手も広がります。
(5)登録情報管理
システムは参加者の登録状況を管理し、登録済みの参加者や未払いの参加者の把握ができなければなりません。また、参加者の登録状況の変更やキャンセル、参加者数の制限管理なども求められます。
ワークショップやハンズオンセミナーなどでは、参加人数の上限管理が必要になります。
登録情報のデータ更新のタイミングも管理者サイドでコントロールできると便利です。リアルタイムかバッチ処理かバックアップポリシーに従って機能することが求められます。更新履歴と差分バックアップの保管は参加者数や参加者タイプの推移の変化分析に役立ちます。
(6)データのセキュリティとプライバシー保護
参加者情報のセキュリティとプライバシー保護は非常に重要です。管理システムには適切なセキュリティ対策を実施し、データの保護、個人情報の取り扱いに注意を払います。法的規制やプライバシーポリシーに準拠するように設計する必要があります。
参加者情報は個人情報ですので、個人情報保護法や各種法令にもとづき厳格に管理されなければなりません。
漏洩した場合の対応や対策については、パートナー企業やJISQ15001管理者の支援を受けることが賢明です。
3.シームレスなユーザーエクスペリエンス
参加登録システムを利用する学会員を中心としたユーザーの満足度の向上は、シームレスなユーザーエクスペリエンス(UX:User eXperience)の実現によってもたらされます。
例えば、管理システムごとに個別のIDやパスワードの設定を設けたり、サイトのデザインが統一されていなかったりするのはユーザーに戸惑いを与えてしまいます。
ユーザーがストレスや不便さを感じることもなく、スムーズに目的を達成できることが重要です。
これにより、ユーザー満足度が向上しサービスや学会への評価や信頼が高まります。
学会の参加登録システムにおいて、シームレスなUXを実現するために求められる機能は次のようなものです。
3.1.シンプルで直感的なインターフェース
(1)迷わせない・わかりやすさ
システムは使いやすく、参加者が迷わずに操作できるインターフェースを提供する必要があります。
わかりやすいメニューやナビゲーション、明瞭なフォームやボタンなど、直感的で親しみやすいデザインが重要です。
(2)エラーハンドリングとバリデーション
ユーザーがエラーを起こした場合、わかりやすいエラーメッセージを表示します。メッセージは具体的で分かりやすく、ユーザーがエラーの原因と解決策を理解できるようにします。
例えば、フォーカスとハイライトを使って、エラーが発生したフィールドや入力項目を視覚的に強調します。ユーザーはエラーの場所を素早く見つけられ、修正に集中できます。
適切なバリデーションルールの設定も有効です。例えば、必須フィールドの欠落の指摘や入力文字数の制限などを設定します。メールアドレスなどは、有効な形式かどうか、メールアドレスが重複していないかなどを確認します。
3.2.透明性と情報提供
ユーザーに自分の参加登録進捗や重要な情報を把握しやすくすると、システムの利用頻度や満足度の向上が図れます。
具体的には次のような情報提供ツールが実装されていると親切です。
(1)ダッシュボード機能
登録者や管理者にビジュアルなマイページ・管理者ページの提供。
レスポンシブデザイン(Responsive Design)の導入でデバイスの画面サイズに合わせて要素の配置やサイズ、フォントサイズ、画像の表示などが柔軟に変化し、ユーザーが異なるデバイスで最適な閲覧体験を得られます。
(2)プロフィール管理機能
ユーザープロフィールを編集、連絡先情報や所属組織、コメントなどの詳細情報の入力と編集の機能。
(3)イベント情報詳細提供機能
特定イベントに関する詳細情報の提供機能。
ユーザーはイベントのスケジュール、プレゼンター情報、セッションの詳細、関連資料などを参照できます。
(4)タイムライン・通知機能
最新のアップデートや重要な情報のユーザーへの通知機能。
講演会やセッションの組み換え、開催教室の変更などイベント当日でも頻繁に発生します。リアルタイムで最新情報が提供されることが求められます。
(5)FAQ・ヘルプ機能
FAQ(よくある質問)で一般的な問題や疑問に対する回答をまとめて提供。ヘルプ機能でユーザーが具体的なトピックやキーワード検索で必要な情報を見つけ検索機能。
規模の大きな大会や学術会議では、AIを利用してFAQ・ヘルプ機能を充実させることも検討した方が良いかもしれません。
3.3.一貫性と迅速性
学会参加登録システムに限ったことではありませんが、複数の画面や手続きで一貫性を保つことも重要です。また、利用動線を考えた画面遷移の設計も大切です。
システム全体のスピードはクラウド利用とオンプレミスで変わってきますが、ユーザー環境に大きく左右されない配慮が必要です。
特に5Gで最適化されたシステムでは4Gや構内ネットワークでは遅く感じてしまいます。動画による案内や高精細画像の提供はネットワーク状況に応じた自動切り替えのシステムがベターです。
これらの機能を組み合わせることで、学会の参加登録システムは参加者にとって使いやすく、ストレスのない利用環境を提供します。シンプルかつ直感的な操作やエラーハンドリング、透明性と情報提供、一貫性と迅速性に配慮することで、参加者の満足度と学会への信頼度を高められます。
おわりに
学会の参加登録システムにおける参加者管理のするシステム要件をみてきました。
学会大会などのイベント参加者をこれらのシステムで管理されれば「量」的な確固な基盤が作れます。
学会や学術団体は非営利組織ですから一般企業のように利益を追求する必要はありません。けれども、管理システムのミスマッチで財政的負担を強いたり、事務局に過度な負担がかかったりすることは避けたいところです。
学会大会や大きなセミナー、国際的学術会議は学会の社会的アピールの場であり、誰しもが盛大な成功を望んでいます。学術研究に注目を集める場としても、企業や自治体へアピールする「ロビー」としての場でもあります。
最適な学会の参加登録システムの構築は土台を強固なものにし、学会のめざす頂をより高くしてくれることでしょう。
パートナー企業の選定に当たってもシステム要件を満たしてくれ、パートナーシップを発揮してくれる能力に着目しましょう。