学会運営DX化への道 失敗しないシステム選定 4/4(全4回) 会員専用サイトのわかりやすい要件解説
2024.07.31
2024.08.27
最近はホームページを個人でも大学のサークルでも持つ時代になっています。学会や学術団体であれば当然のごとくホームページはあるはずです。ところが、意外なことに学会や学術団体の会員向けサイトは、内外の求められるニーズにちょっと物足りないものもあります。 中にはホームページが作られてから、余り見直しがされていない学会もあるようです。そのようなWebサイトは、会員向けサービス(機能)の充実度が不足しています。 ここでは、学会の会員専用サイトの必要性とあり方を考え、再構築も含めた課題を整理してみます。現代にふさわしい学会サイトについて、利用者のニーズから探ってみることが賢明だと思われます。
1.学会の会員サイトの必要性
会員サイトは、インターネット上に存在する一連の関連があるWebページの集まりでできています。複数のWebページやシステムで構成され、ナビゲーションメニューやリンクを介して相互につながっています。 その中でホームページは、会員サイトの最初に表示されるメインページです。ホームページは、会員サイトの「顔」とも言える部分であり、一般サイトではトップページとして利用されます。ホームページは、会員サイトの内容や目的を要約し、他のページへのリンクや重要な情報へのアクセスを提供するポータル(玄関)の役割を果たします。所属する学会や学術団体、関連団体のホームページを一通りiPhoneなどで覗いてみてください。一般企業のWebサイトやECサイトと比べて違和感を持たれる場合もあると思います。 スマートフォンでアクセスした時の一番の違和感は「文字が小さい!」と感じる時です。 ユーザーフレンドリーではなく、モバイルファーストになっていないサイト設計のケースです。プライバシーポリシーの提示や個人情報保護方針の掲示もないサイトも存在します。
1.1.学会の窓口(ポータルサイト)
学会や学術団体の多くはビルや建物、大学のキャンパスのような「実物」はありません。コンピュータのソフトウェアのように機能やサービスは存在しても、ハードウェアにあたるものがありません。 会員向けにはもちろん、社会的に存在を示すものは学会誌や会報、ホームページです。 学会サイトには二つの役割があり、対外的広報の「顔」とメンバー向けサービスサイトの「機能」です。
1.2.会員管理
学会サイトの大きな役割の一つに会員向けサービスがあります。会員管理システムへの入り口になるのが学会のホームページです。 会員管理システムには、次のような機能があります。
(1)データベース機能
・会員登録、プロフィール管理
・データ分析、レポート機能
(2)会計機能
・会費納入状況の可視化
・決済機能
(3)セキュリティ機能
・個人情報保護
・論文や未発表作品の保護
※詳しくは『会員システムのわかりやすい要件解説』をご覧ください。
1.3.学術コンテンツのアーカイブと検索
学会サイトで利用者から求められる機能は、論文や作品などの学術コンテンツ保存と検索機能でしょう。 それは次のような学術発展の促進をうながす役割があるからです。
(1)学術成果の保存と履歴事項の提供
学会や学術会議は学術的な研究成果や知見を発表する場です。学術コンテンツのアーカイブ機能を会員サイトに組み込むことで、学会のメンバーは過去の研究成果に簡単に検索できます。 特に、いつどこの大会や研究会での発表かを知ることによって、学説の形成過程や議論の発展経過がわかります。 これにより、重要な論文、作品、プレゼンテーション、ポスターなどを将来の参照や引用に活用できます。
(2)学術情報の共有と交流の活性化
学術コンテンツのアーカイブ機能と検索機能は、学会メンバー間の学術情報の共有と交流を促進します。 学術コンテンツを会員間で共有することで、研究者同士の情報交換や意見交換が行われます。これにより、学術的な議論や共同研究の可能性が広がります。
(3)学術コミュニティの形成と協力関係の構築
提供されるアーカイブ機能や検索機能は、学術コミュニティの形成と協力関係の構築にも貢献します。 会員は研究成果をアーカイブし、他の会員の成果にアクセスすることで、共通の興味や関心事を持つ研究者とのつながりを築けます。これにより、新たな共同研究の機会や学術的なネットワークの構築が可能です。 検索機能で大切なことは、PDF化されていない論文や文書でも画像中のテキスト情報を検索できるOCR検索が使えるようになっているかどうかです。また、類似画像検索や逆画像検索により画像から類似画像を検索できる機能も重要です。これらの機能が実装されていれば写真や図版から求める情報の検索もできます。
2.会員サイト構築のメリット
前述のような会員ニーズを満たすために、会員サイトを構築するわけですが、事務局側にも大きなメリットが生まれます。
2.1.会員管理の確実化
会員サイトの構築により、会員情報の確実な管理ができます。 会員の登録情報や更新情報を一元化することで、正確かつ最新の情報を保持できます。これにより、会員情報の正確性と信頼性を向上させ、円滑なコミュニケーションやメンバーサービスの提供ができます。 また、会員自身による入力やデータ更新機能を設けることで事務局の省力化とミスを防げます。
2.2.イベント(行事)管理
会員サイトは学会の各種イベントや学会行事の管理に役立ちます。大会やセミナーの予約、参加登録、プログラムの閲覧、発表申し込みなどの機能を提供することで、学会のイベント運営を効率化し、参加者との円滑なコミュニケーションを促します。 また、参加者の情報や支払い情報を一元管理することで、イベントの採算管理、予算執行状況の管理も容易になります。
2.3.コンテンツ管理
学術コンテンツの管理機能を組み込むことによってさまざまなメリットが生まれます。 学術論文、プレゼンテーション、ポスターなどの学術コンテンツをアップロードし、メンバー間での共有やアーカイブ化が可能です。このデータをもとに印刷会社に原稿の入稿や校正、印刷やポスター作成の依頼なども円滑にできます。 また、学会大会や学術会議のプログラムや抄録の作成に、演題の正確な転記、講演者プロフィールの引用なども短時間に正確にできます。
3.会員サイト構築方法とポイント
3.1.クラウドの活用とパッケージの利用
さて実際に学会のサイト構築やリニューアルをどう進めたら良いでしょうか。
大別すれば2つの方法に分かれます。
(1)オリジナルで一から作る
(2)既製ツールの利用
(1)については、一般のホームページ構築サイトを参照していただければ、無数と言って良いほど事例とヒントがちりばめられています。
理工系の学会では余りハードルも高くないでしょう。プログラミングが得意であればフルスクラッチでコーディングすれば問題はありません。最新のCMS(Contents Management System)ツールを使えば、ほんの数時間で完成してしまいます。代表的なものでは、オープンソースで世界シェアの約6割、日本ではシェア約8割を超えている“Word Press”があります。プログラミングの経験があり、HTMLの記述ができれば自由度も高まります。
しかしながら、文系や社会科学系の学会では少々ハードルが高いかもしれません。
また、理工系学会でも研究や大学業務に多忙な場合には、(2)の方法を選ぶ方が賢明かもしれません。
(2)の選択肢を選ぶ場合にも方法は2つあります。
【パッケージの利用】
サイト構築用のASP(Application Service Provider)ツールを用いる方法です。クラウドサービスとして提供されるので、サーバーの準備や設定、セキュリティ対策などに煩わされることなく安価にサイト構築が可能です。ツールも各種揃っているので応用範囲も広がります。 自前サーバーにインストールして使用するパッケージもあります。既にサーバーを設置していて、ICT管理運用のリソースがある場合に向いています。
【学会会員管理システムの応用】
学会会員管理システムの中で、ホームページ作成機能を備えたものもあります。 会員管理システムと一緒に学会Webサイトを構築できる機能が提供されています。サーバーの管理やHTMLの知識が無くても簡単にWebサイトの作成ができるため、会員管理システムを導入するのと同時にWebサイトを移行できます。大会案内の一斉送信や出欠管理、会費の管理など、学会の運営に使える機能が数多く実装されています。
3.2.柔軟性と拡張性
会員サイトの構築は作って「おしまい」ではなく、時代の流れや会員ニーズに応じて日々アップデートされバージョンアップ、機能追加が求められます。 そのためには、システムアーキテクチャに柔軟性と拡張性が必要です。また、別のシステムやオープンソースツールなどとの連携に対応できることが望まれます。ビデオ会議システムやチャットサービスなどはシェア率の高いものとの連携も取れるとユーザーフレンドリーです
3.3.セキュリティ対策
学会サイトにアクセスした時に、「安全ではありません」の警告が出るサイトがあります。
閲覧しようとしているページに「暗号化」という個人情報を第三者が盗見られないようにする設定が施されていない場合に表示されます。
サイトのURLの表示も
「http://www.※※※※※※.or.jp」や「http://www.※※※※※※.ne.jp」など、冒頭が「https://」になっていないものです。暗号化されていない脆弱なサイトです。
このような学会サイトで会員管理を進めたり、掲示板やコミュニケーション機能を付与したりするのには適切ではありません。
また、「安全ではありません」の警告が表示されることは、アクセスした人にサイトの技術的な安全性の問題ではなく、団体としての安全性の問題として誤解される危険性があります。学会や学術団体のイメージダウンにつながりますので、早急な対応が求められる事例です。
おわりに
ここまで見てきたように、学会サイトの構築は学会活動に必須と言えます。 機能や規模は学会の大きさや目的によっても当然ちがってきます。学会の財政状況や予算によって構築、アップデートできる範囲も限られてきます。 理工系の学会でシステムやプログラミングに精通しており、独自の高性能サーバーを持ちオンプレミスでハードウェアやネットワーク環境を用意できる場合をのぞけば、学会管理システムを提供しているパートナーを選定することが賢明な選択肢と言えます。 ユーザーフレンドリーで誰でも安全安心してアクセスできる学会サイトを用意することはとても大切です。 多くの学会に関わるメンバーやこれから学会に参加、加入を検討している学生や初学者に開かれた門戸は、学術研究の発展のためになくてはならないものでしょう。