学会運営DX化への道 失敗しないシステム選定 3/4(全4回) 会員システムのわかりやすい要件解説

2024.07.31

2024.07.31

学会管理における基本は、会則による学会の会員についての規定です。 この規定は、「会員制組織」や「団体会員」の規約と同じように最も基本的事項です。会員の種別や入会基準、権利や義務を決めており、多くの会則の冒頭で規定されています。学会管理システムに反映させる基本的事項です。この会員管理には、どのようなシステムを構築、導入すれば良いでしょうか。 システムの必要性や機能、メリットやデメリットを見てゆきながら構築とシステム選定のポイントを探ります。また、おわりにシステム構築に最適なパートナー企業(団体)の選定基準を明らかにします。

1.会員管理システムとは

1.1.会員管理システムとは

学会の管理システムとは、学会の運営や会員管理、情報共有などを効率的に行うためのツールです。主な役割には次のようなものがあります。

(1)会員管理(データベース)
会員の登録やプロフィール、登録した情報を管理します。会員の連絡先情報や所属大学、研究機関、企業・団体、会費の支払い状況などがデータベース化され、必要な情報を素早く参照できるようにするものです。

(2)イベント(各種行事)管理
学会のイベントや学会大会、学術会議、セミナー、研究発表会などのイベント情報を管理します。イベントや各種行事のスケジュール作成、参加登録、発表申し込み、演題登録、会場の予約などを支援します。
※関連するコラムがありますので参考にしてください。
『学会の参加登録システムの要件』
『学会大会の演題登録システムと役割について』

(3)論文管理
学術論文の投稿や査読プロセスの工程を管理します。論文の投稿受付や査読者の選定、査読結果の管理などを支援し、論文の審査や学会誌掲載に関するプロセスを円滑に進めます。

(4)出版物管理
学術雑誌や学会誌などの出版物の管理、論文の編集やレビュー、掲載スケジュールの管理など、出版に関わるプロセスを管理します。

(5)会計管理
学会の予算、会計、財務を管理します。会費の収納や支払い、予算の作成や監査、経費の精算など、会計に関わる業務をサポートします。

(6)コミュニケーションツール
学会内のコミュニケーションを支援する機能が含まれます。メーリングリストやフォーラム、チャット機能などを提供し、会員間や役員とのコミュニケーションを円滑化します。

これらの役割は、学会の運営を効率化し、会員や関係者との円滑な情報共有や連絡支援を進めます。ただし、具体的な学会の管理システムは、学会の規模や特性に合わせてカスタマイズされることが一般的です。このような管理システムで最も基本となるのが、会員管理システムです。

1.2.会員管理システムの概要と必要性

会員の管理は学会や学術団体の基本的なことです。所属会員の各種情報を手書きカードでカルテのように保存していたり、スプレッドシートやデータベース・アプリケーションで登録、管理していたりする学会も少なくありません。 また、担当者に属人化しがちでアプリケーションの機能によっては制約事項も増えてしまいます。担当者の変更時の引き継ぎやアプリケーションの変更などの時には煩雑でミスが起こりがちです。さらに、会員名簿から学会大会の案内通知情報の抽出や宛名の印刷なども間違いが発生しやすく修正も大変です。 このような間違いの防止や手間暇の削減、属人化の抑制に会員管理システムの導入が役立ちます。 会員管理システム導入の最大メリットは会員情報の一元管理が可能になることです。

1.3.学会の会員管理システムの主要機能

学会の会員管理システムに求められる主な機能は何でしょうか。 マストとも言える3つの機能と付加価値としてあると便利な2つの機能があります。

1【必須機能】

(1)データベース機能
・会員登録、プロフィール管理
・データ分析、レポート機能

(2)会計機能
・会費納入状況の可視化
・決済機能

(3)セキュリティ機能
・個人情報保護
・論文や未発表作品の保護

【付加機能】

(1)イベント管理
・学会大会開催支援
・学術会議、セミナー開催支援

(2)コミュニケーション機能
・メール送信
・掲示板、フォーラム運営

付加機能は別のアプリケーションや各種クラウドサービスでも実現できます。また、必須機能の基本メニューからリンクさせて拡張システムにすることで、ミニマムなシステム構成にすることも可能です。

2.学会会員管理システムのメリットとデメリット

ここでは、会員管理システムの導入による事務局作業の変化に焦点を当ててそのメリットとデメリットを整理してみましょう。

2.1.システム導入の前に

システム導入の前提となることをまず整理しましょう。 それは、各学会の規模や特性に合致したシステムであるかどうかです。「帯に短し襷に長し」とならないように最適化されたものかが問われます。 どっちつかずで中途半端なシステムは、手動管理の時よりも非効率的で間違いも発生してしまいます。

2.2.会員管理システムのメリット

会員管理をシステム化するメリットは次の通りです。

(1)効率化と正確性の確保

システム化により、会員情報の入力や更新、検索などの作業が効率化されます。マイページの設定が可能であれば会員が自ら入力できるようになるため、省力化と信憑性が上がります。また、データの一元管理により情報の正確性や整合性が向上します。

(2)自動化と自己管理による効率化

システム化することで、会員が自分の情報を自己管理でき、会員はオンラインフォームを通じて情報の更新や会費の支払いなどが可能です。そのため手続きが簡素化、効率化されます。

(3)コミュニケーションと情報共有の促進

会員管理システムは、会員への連絡や情報共有を容易にします。メールやニュースレターなどのコミュニケーションツールを統合し、会員に対して重要な情報やイベントのお知らせを効果的に伝えられます。

2.3.会員管理システムのデメリットと留意点

一方、会員管理をシステム化する際の留意点も考慮する必要があります。

(1)導入コストと運用コストの発生

会員管理システムの導入には初期投資や導入コストがかかります。また、システムの維持や管理に関する運用コストも発生する可能性があります。

(2)プライバシーとセキュリティの問題

会員の個人情報やプライバシーの保護は重要です。会員管理システムにおいては、適切なセキュリティ対策やプライバシーポリシーの策定が必要です。

(3)技術的制約とカスタマイズの制限

システムには技術的な制約が存在する場合があります。一部の特定の機能やカスタマイズが制限される場合もありますので、要件に合わせたシステムを選定することが求められます。

(4)拡張性と柔軟性の問題

学会の規模や成長に応じてシステムが拡張可能かどうかを検討します。将来的な会員数の増加や追加機能の要求に対応できるか、システムが柔軟で拡張性のあるアーキテクチャを持っているか確かめましょう。

(5)システムとの連携やデータの統合が可能か

会員管理システムが他のシステムとの連携やデータの統合を容易にするかどうかも重要です。例えば、会計システムやイベント管理システムとのデータ連携がスムーズに行えるかどうかなどです。

(6)サポート・メンテナンスと可用性(Availability)

システム導入後のサポートやメンテナンスが十分に提供されるかを確かめましょう。障害対応やバージョンアップに伴うサポートの提供、定期的なバックアップやセキュリティアップデートなど、メンテナンスがされるかが重要な点です。 システムが快適な状態にあり、利用し続けられることが求められます。

3.会員管理システムの選定ポイント

それでは、会員管理システムを選定する時のポイントにはどのようなものがあるでしょうか。

3.1.目的と要件の明確化

まず、会員管理システム構築・導入の目的の明確化と必要事項、要件定義が重要です。 学会のニーズに合致した機能を持つシステムか、会員登録、会費管理、イベント管理、コミュニケーション機能、データ分析など、学会の目的に沿った機能を備えているか確かめましょう。 具体的な目的を明確にすることで、適切なシステムを選定できます。

3.2.機能と柔軟性(elastic)

機能を持っているだけではなく、将来性も大切です。会員管理のシステムについて柔軟性(elastic)を考える場合、性能や容量を動的(dynamic)に変更することが可能なシステムかどうかがポイントです。 利用者数の変化や処理要求の量に応じて、システム規模が増減するような仕組みを備えていることもポイントです。スタティック(static:静的)な柔軟性ではなく、動的で可変的な機能が実装されているシステムかを確かめましょう。

3.3.ユーザビリティ(使いやすさ)

ユーザーフレンドリーなインターフェースかどうか、システムの使いやすさも重要な要素です。直感的で使いやすいインターフェースを持つシステムを選ぶことで、会員や事務局がスムーズに操作できます。 スマートフォンやタブレット端末などのマルチデバイスに対応していることも重要です。

3.4.サポート(メンテナンス)

サポートやメンテナンスはシステムの安定性、継続的な機能の提供、問題への対応能力、利用者満足度の向上などに直結しています。 学会・学術団体によっては、システムの運用と管理に関して専門知識やリソースを持つことが難しい場合があります。サポートやメンテナンスを提供してくれるパートナーが存在することは、システムの円滑な運用を保証する上で重要な要素です。また、サポートやメンテナンスは学会・学術団体の本来業務に集中できる環境を提供する役割も果たします。

3.5.コスト(予算)

システムの選定にあたっては、学会の予算やリソース、ニーズに合わせて行う必要があります。 コストだけでなく、システムの機能性、拡張性、サポート体制なども総合的に評価し、コストと効果のバランスを考えることが重要です。また、将来の成長や変化に備えて柔軟性を持ったシステムを選ぶこともコスト面での重要な視点です。 コストを考える際には、システムの導入コストだけでなく、運用やメンテナンスにかかる継続的なコストも考慮する必要があります。 ベンダーやサービスプロバイダーによって、ライセンス料、カスタマイズ料金、サポート料金、アップデート料金などの異なる形態でコストが発生する場合があります。全体のコストを把握し、総所有コスト(TCO:Total Cost of Ownership)を評価することが大切です。

3.6.セキュリティとコンプライアンス

(1)セキュリティ

セキュリティ機能は昨今のシステム運用では必須事項で、どのような企業や団体であってもおろそかにはしていません。個人情報保護法の遵守やコンプライアンスの強化は日々、すすめられています。 論文データベースへの侵入や改竄の防止は、学会大会前の未発表の研究成果や特許取得前の知財を守る、研究者や大学・研究機関にとっては大きな課題です。

(2)コンプライアンス

セキュリティはハードウェアやソフトウェアのシステム寄りのディフェンス事項です。それに対してコンプライアンスは社会的要請や法令遵守についての側面です。 特に注意しなければならないのは外資系(米国やEUなど)でクラウドサービスやシステム提供している企業への対応です。サービス提供企業がその国に拠点を置く場合に、当該国の法律によりサービスの制限や影響を受けることがあるからです。 EUにおけるGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)への対応は、EU居住者の個人データを取り扱う場合に発生します。 ヨーロッパからの研究者や留学生の受け入れは大学のみならず各種研究機関、一般企業でも増えています。GDPRへの対応はEUで活動する企業だけではなく、企業規模に関わらず日本企業にも求められます。 また、アメリカでは海外のデータの合法的使用を明確化する米国クラウド法(米国議会2018年3月可決、大統領の署名により成立)により、データ開示請求が政府により出来るようになりました。 このクラウド法では、米政府は米国内に本拠点を持つ企業に対しデータ(データセンターやサーバー)の保存場所が国内外に関わらず令状なしでデータ開示の要求が可能となっています。 クラウドサービスの利用や所属会員の居住地により、セキュリティやコンプライアンスへの対応が大きく変わってくる時代です。

おわりに

最適な会員管理システムを選定するためには、学会の会員ニーズや予算、将来の成長を考慮し、複数のシステムを比較・評価することが欠かせません。 最近では、自前でシステムをビルドアップして必要機能を開発、実装する学会はまれでしょう。 多くの場合、パートナー企業を選定し、その学会にあった機能をカスタマイズして行くのがオーソドックスな手法と言えます。 選定のポイントとなることは、想定パートナー企業や既存ユーザーのレビューを調査したり、デモやトライアルを利用したりしてシステムの実際の機能や使い勝手を評価することです。 評価は利用者と事務局サイドの二つの視点から必要です。 細かい機能の評価よりも、会員管理システムの選定ポイントを満たしており、将来的なアップデートやバージョンアップに期待できるシステムであるかどうかが重要です。 学会の規模や会員構成も固定的ではなく変化して行きます。また、新型コロナウイルス(COVID-19)の蔓延のような、外的環境変化にも対応できることが必要です。 オンライン学会・国際会議の開催がきるシステムやリアル開催と並列化できるハイブリッド開催に対応できることなどは、とても大切な選定ポイントです。 セキュリティについても各種認証(Pマーク:JISQ15001取得は必須事項)の取得パートナーであるかどうかは大切です。 コストについては、パッケージ化されたシステムを利用すれば従来コストを大幅に下げることもできます。システムによっては、従来の特定機能の比較で、半分以下、中には1/5までコストダウンできるパッケージもあります。 まとめると次のようなことが選定基準となるでしょう。

(1)想定パートナーの社会的評価
(2)ユーザーからの評価(レビュー)
(3)デモやトライアルの有無
(4)将来性(拡張性)への評価
(5)外的環境変化に対する対応力
(6)学会大会のハイブリッド開催への対応
(7)Pマーク取得企業(団体)
(8)コスト(コストダウン率)